藤子・F・不二雄大全集 UTOPIA 最後の世界大戦/天使の玉ちゃん (藤子・F・不二雄大全集 第3期)
オバQを読みたいという願いを叶えることは、かつて、かなり難しいことだった。10年程前、某古書店で選集が20万円弱で売られているのを見て、もう再刊は無理なのかと悲観したものである。原因は表現規制。鼻に骨を刺した黒人のオバケが差別を助長する、などという趣旨だったらしい。声の大きい偽善者のヒステリー。
そして待望の全集刊行。これは第3期最終巻、まだ第4期の15冊が残っているらしいが、代表作は全て出揃ったようだ。これで100冊。待ちに待ったオバQに留まらず、自宅には80冊程度が揃った。本巻はデビュー作「天使の玉ちゃん」と最初で最後の単行本描き下ろし「UTOPIA 最後の世界大戦」を収録。手塚治虫の影響が色濃く、後者は筆名も「足塚不二雄」である。前者はシンプルな4コマ作品だが、一話完結ではなく、続けて読むと話がつながっている。後者は映画的なSF大作。瑕も目立つが作者の年齢と時代とを考えるならこれは当時の傑作だろう。
後者から2つのセリフを引く。
1.「いまの世界は科学科学科学!芸術なんかすっかり亡んでしまったよ」(p.41)
たとえば私が専門とする医学の世界。Science & Artなどと自賛するが、学会はほぼscience一色である。また数日前、理学療法士向けのある講演で、Maurice Ravelを知らない人がどの位いるか聞いてみた。約3分の1が手を挙げる。呆れ返る。今や芸術は好事家の玩弄物なのか。文楽が死のうとオーケストラが死のうと、大衆が平気な理由がよくわかる。それはもう人間の特権を放棄しているようなものなのに。だから、
2.「人間は何千年もかかって世の中を進歩させた……。ところがね、〜人間自身はほとんど進歩しなかったんだ!」(p.102)
という言葉に、暗い気分で同意する。本能や欲望や衝動だけで動く人間が世界を動かす現代。そんな煽動家も、それを支持する大衆も、もちろん同罪である。
UTOPIA
JPOPの新時代が幕を開けた。
世代的にドンピシャであろうハイスタンダードやFATレコード系のメロディックハードコアを軸に、民族音楽やらネオ渋谷系やら日本語ヒップホップやらダンス・クラブミュージックなど世界中の音楽がミックスされた、すごいとしか言いようのない傑作。
各曲レビュー。
tra.1の「風流ボーイ」。ボーカル・玉屋の「スッ」というブレスから全員の叫び声と楽器の音が同時に響き、めくるめくWiennersワールドの幕開けを告げる。
ボーイズ!ガールズ!の掛け合いが最高。ライブでの盛り上がりは想像に難くない。
MAXの『じゅうごや!』の掛け声からtra.2「十五夜サテライト」へ。
遠く離れた二人描いた歌詞と切ないメロディを男女のボーカルが歌いあげる。玉屋2060%のリズムギタリストとしての才能をビンビンに感じることができる。
tra.3「MIDNIGHT EXPRESS」はこれぞWienners!といった1分23秒のショートパンク。あぁたまらない。
続くtra.4「トワイライト」。キーボード・サンプラーのMAX女史作詞作曲のラブソング。景色がありありと目に浮かぶ。絡み合う楽器。
短いインスト「Black cowboy」を挟んでのtrack6「三原山の怪獣」はまさに怪獣WiennersがJPOPを破壊せんとばかりのパンクソング。
後半戦。track7はまさかの赤ちゃんの泣き声から始まる「子供の心」。
未来のニッポンを担うこどもへの愛情が「何て素敵でなんてかわいいの」というストレートすぎるメッセージで表現された曲。ポップなのに泣ける。
track8「海へ行くつもりだった」音楽ファンの諸兄には説明不要ですよねwわるふざけかと思いきやクソ真面目に渋谷系してます。
track9「MUSASHINO CITY」はメタリックなギターとスラップベース、そして玉屋のラップがカオスに響くミクスチャー。すげぇ。
10「BECAUSE I LOVE IT」は伝説のスカコアバンド「LIFE BALL」のカバー。元曲へのリスペクトとWIennersテイストが合わさった傑作。
まさに桃源郷を思わせるインスト「UTOPIA」を挟んで、ラストの「Venus」。『さよなら ごめんね バイバイ』と歌う彼らにまだ終わらないでくれ!と叫びたくなる。
そして再びtrack1へ…。
以上です。
なにより、「JAPAN!」「ニッポン!」と叫んでくれる彼らの日本への愛に熱くなります。
日本のポップスはまだまだ捨てたもんじゃない。
心底、売れて欲しい。一生聴き続けます
Utopia
ラスベガスの郊外に作られたUtopiaは、ホログラフィーなど科学技術を駆使した最先端のテーマパークであるが、ある日正体不明のグループに脅迫され、数万人の入場者の命が危険にさらされる。Utopiaのロボット技術の設計に大きく関与し、たまたま、その日最愛の娘とともにUtopiaを訪れた主人公は、娘と入場者を守るため、犯人に対し命がけの戦いを挑む。DisneylandとUniversal Studiosを合わせて、さらに発展させたような夢のテーマパークが意外な脆さを有し、自慢の最新の技術を逆手にとられて犯人の思う壺にはまっていく様は十分現実味があり、緊迫感とともに恐怖感を与えてくれる。もし、現実のテーマパークが同様のテロに遭遇したらと思うと、ぞっとさせられる作品である。著者のLincoln Childは、Relic、Cabinet of CuriositiesなどDouglas Prestonとの共著によるスリリングな秀作が多いが、本作品は珍しく、彼1人で書いている。しかし、ストーリー展開の面白さ、スピード感は他の共著作品と引けをとらず、他の作品と同様お勧めできる。英語は若干難しい所がある。
Utopia (Penguin Great Ideas)
原文で読むことと、翻訳で読むことは大きな差があるだろう。英語のニュアンスや使いまわしを翻訳版ではあまりうまく表現することができない。そういった意味では、原文版を読むことは意義が大きいと思う。さらに、このレベルの著書では破格的な価格である。こういった要素を考慮すると、翻訳版で読むことに意義があるのかどうか疑問に感じる。