スラムオンライン (ハヤカワ文庫 JA (800))
オンラインゲームが舞台。のめり込んだあげくに現実の生活を壊した友人のくだりなんてのもあって現実味のある設定。
しかし作中で語られるゲームの内容が、現実で流行っているようなパーティを集めて経験値を稼ぎ使用キャラクターの数値を育てる RPG ではなく、プレイヤーの正確な操作と反応速度と瞬時の判断が全てのリアルタイム対戦。そのせいか作中世界には、むしろ現実のゲームセンターに近い空気が流れる。
習熟しても何の得になるわけでもない単なる仮想環境の中で、楽しみとして遊ぶわけでもなく、自分の考える高みを目指さざるを得なかったどうしようもない連中それぞれの顛末が語られてゆく。
誰よりも高い点数を叩き出す、誰よりも深くシステムを読む、そしてゲームの上で誰よりも強くなる……はたから見れば何が面白いのか理解できないであろう気分を、かいま見たい方はどうぞ。
そしてもちろん、かつて実際に挑んだことのある人や、今実際に戦ってる人にも。
よくわかる現代魔法 1 new edition (集英社スーパーダッシュ文庫)
現代魔法シリーズの始まりにあたる巻ですが、一応改修版です。
イラストは一新されていますが、文章には差ほど変わりはありません。
人によっては始めあたるため退屈に感じるかもしれませんが、自分は懐かしい感じがして心地が良いでした。
主人公の頑張る姿勢や言動に癒されましたね。
3・11の未来――日本・SF・創造力
9・11以降、伊藤計劃という稀有な作家の存在によって日本SF小説も変わったが、では、3・11ではどうなのか、という関心を持って読んでみた。7月に亡くなった小松左京の巻頭のメッセージは良かったが...
その小松左京を始めとして、26名のSF作家、評論家たちの文章が、現実に起きた津波による災害、そしてその後今でも継続している原発の事故の実態をとらえきれなかった小説の想像力のなさのエクスキューズになっているような気がする。
もちろん、そうではないという反論もあるし、真摯な反省ものってはいるが、失礼な言葉で言えば浮世離れしている気がする。被災地の人々や復旧にあたった人たちには、そう思われても仕方がない。
でも、そもそも「SF」というジャンルにそこまで要求すべきなのか、という点も疑問。「浮世離れ」で何が悪いのかって開き直るつもりはないけど、現実は常に人間の想像力、創造力を上回るのではないか。そして、その現実を踏まえて、さらに創造していくという繰り返しなのでは。
この災害を経験したSF作家たちが、さらに優れたSF小説を生み出してくれることを一SF小説ファンとしては期待してやまない。