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突破論
「(平井コーチは)選手の人生を背負っているんです。自分の人生をかけて」(平井レーシングチーム代表・平井亮子)
北島康介をはじめとしたスイマーを育て、ロンドン五輪では競泳日本チームのヘッドコーチも務めた平井伯昌氏の本。ビジネス情報誌の連載が元になっている。60の金言という形になっており、ポイントがわかりやすくまとめられている。
同じ著者の2008年の「見抜く力」に続いて読んだ。相手や状況に応じて指導法を変える、ゴールから逆算してシュミレーションする、選手に自分の泳ぎや状態を詳しく言葉で説明させることの重要性というような基本的な考えは同じだが、こちらの方が分量が多く、より新しい内容や経験が反映されている。例えば、人間性に対する要求についてはより柔軟性のある見解が述べられているし、既に経験や実績のある大人の選手を指導するときの方法の違い、惜しくも五輪直前に亡くなったダーレオーエンやロンドン五輪で金メダルを取ったキャメロン・ファンデルバーグを指導したことで気づいた日本人と外国人の違いについても述べている。チームとしての強化を図るときに中間レベルの選手や選考会で残れるかギリギリの選手の調子を上げるようにするというのも印象に残った。また、最後に、中村礼子、寺川綾、加藤ゆか、上田春佳という門下生の4人の選手及び平井レーシングチーム代表を務めている奥さんの証言が加わっており、周囲や教えを受けている側からも著者のコーチングの特徴がわかるようになっている。
近年、コーチング力の重要性がビジネスの世界でも注目されており、スポーツの世界で若手の指導を通じて結果を出している著者には企業からも数多くの講演依頼が来ているという。本書の内容は基本的に競泳の世界についての話だが、若手のティーチングやコーチングにおいて一般的に応用が利きそうなヒントが多く盛り込まれているという点で、人材育成に関わる機会のある方にとっては一読の価値のある内容になっている。