1996年MTV(と言ってもあのMTVではないようだ)ミュージック・プログラムのスタジオにて収録。ミクローシュ・ペレーニはハンガリー出身で1948年生まれ。地元ハンガリーのHUNGAROTONの収録が多く、同じハンガリー出身のアンドラーシュ・シフとの共演が多い。特徴は長いフレーズでも完璧にこなすボウイングだろう。
そのベレーニが48才の時にこのチェリストにとっての聖典を映像とともに残したわけだが、僕には未だ早かったのではなかったか、と思えてしまった。多くの先達が自らの力が充ち満ちたと意識した時にこの聖典は演奏されてきた。それ故余りに素晴らしい演奏がたくさん残されている。例えばロストロポーヴッチの素晴らしい演奏を解説を挟みながら聴いたあとでは、ただたくさんのチェロに囲まれている不思議な映像の中の彼の演奏は、未だ若い、と思える。
この約5年後、アンドラーシュ・シフとベートーヴェンのチェロ・ソナタのアルバムをECMで収録しているのだが、この時とは別人のような演奏になっている。マンフレット・アイヒャーのプロデュースの力も大きいのだろうが、是非そちらも聴いて欲しい。
ここでの演奏は時が満ちていない気がする。時が満ちたときにECMのすばらしいスタッフと共に是非再度録音して欲しい、そう思う。
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 BWV 1007-1012 (全曲) (J.S.Bach / 6 Suites For Cello Solo BWV 1007-1012 / Miklos Perenyi) [DVD] [日本語解説書付]
1996年MTV(と言ってもあのMTVではないようだ)ミュージック・プログラムのスタジオにて収録。ミクローシュ・ペレーニはハンガリー出身で1948年生まれ。地元ハンガリーのHUNGAROTONの収録が多く、同じハンガリー出身のアンドラーシュ・シフとの共演が多い。特徴は長いフレーズでも完璧にこなすボウイングだろう。
そのベレーニが48才の時にこのチェリストにとっての聖典を映像とともに残したわけだが、僕には未だ早かったのではなかったか、と思えてしまった。多くの先達が自らの力が充ち満ちたと意識した時にこの聖典は演奏されてきた。それ故余りに素晴らしい演奏がたくさん残されている。例えばロストロポーヴッチの素晴らしい演奏を解説を挟みながら聴いたあとでは、ただたくさんのチェロに囲まれている不思議な映像の中の彼の演奏は、未だ若い、と思える。
この約5年後、アンドラーシュ・シフとベートーヴェンのチェロ・ソナタのアルバムをECMで収録しているのだが、この時とは別人のような演奏になっている。マンフレット・アイヒャーのプロデュースの力も大きいのだろうが、是非そちらも聴いて欲しい。
ここでの演奏は時が満ちていない気がする。時が満ちたときにECMのすばらしいスタッフと共に是非再度録音して欲しい、そう思う。
チェロのための無伴奏作品集
本盤の演奏者、ミクローシュ・ペレーニは1948年ハンガリー・ブダペスト生まれのチェリスト。9歳で初コンサートを行なって以来、現在リスト音楽院
の教授職を勤めながら世界都市で演奏活動を行うベテラン。録音作品が余り多くないこともあり日本での知名度はそれ程高くないかもしれない。同
じハンガリーの同胞であるピアニスト、アンドラーシュ・シフとは旧知の仲でコンサート・録音作品では彼との共演が多く見られる。
ECMレーベルからとなる新作は、ブリテンのチェロ組曲第3番Op.87、バッハのチェロ組曲第6番 BWV1012 、リゲティのチェロソナタという3編の無
伴奏作品を収録。無伴奏チェロ作品集ということで若干取っ付きにくさを感じたが、実際聴くと深い感銘を受ける見事な演奏に出会えた。
ベレーニの演奏は余計な装飾や過剰な表現がなく、演奏者の意思を弦に託した真っ直ぐな音色が印象深い。収録曲はどれもチェロ奏者にとって演
奏至難の曲だそうだが、彼の演奏は技巧や奏法等細かい部分を理屈で考える前に、音を心へと直に響かせる強い説得力、勢いを感じさせる。
高音部の弦を1本追加した6弦用に書かれたものを、現代では5弦で演奏する故困難が伴うバッハのチェロ組曲6番。彼の演奏から伝わるのは高度
な技巧の誇示ではなく、簡潔で美しい単旋律の奥深さ。たっぷりとした音空間に伸びる旋律を聴いていると、自分が何かとんでもなく広大な空間に佇
む様な感動がある。技巧の困難さを超え楽曲の核の魅力を伝えるのは並大抵のことではないだろうが、彼の演奏は確かにそれに気づかせてくれる。
最も興味深く聴いたのが20世紀の作曲家、ジョルジュ・リゲティによる2楽章構成のチェロソナタ。チューニングを自在に変化させ生まれる特異な響
きや、刻みを細かく変えるパッセージが空間を歪ませ聴く人を不思議な世界へと誘う。ここでペレーニが魅せる広い音域と音量を自在に操る実にダ
イナミックな演奏は、風変わりな響きの面白さも相まって高い興奮を覚える。
彼の演奏は、1台のチェロから聴く者の心と空間を支配する磁力を生むことが可能であるという、無伴奏チェロという演奏形態そのものの魅力に気づ
かせてくれる。迷いの無い凛とした彼の音色は、音楽を愛する人なら何かしら心に引っ掛かりを与えるのではないだろうか。
Miklos Perenyi & Denes Varjon / Bach.Brahms.Britten
ハンガリーのチェリスト、ペレーニ・ミクローシュ(Perenyi Miklos 1948-)による、ロンドン、ウィグモア・ホール(Wigmore Hall)での2009年のライヴの模様を収録。曲目は、バッハの無伴奏チェロ組曲第3番、ブリテンのチェロソナタ、ブラームスのチェロソナタ第2番、最後にアンコールでショパンのチェロソナタより第3楽章の「ラルゴ」。同じハンガリーのピアニスト、ヴァーリョン・デーネシュ(Varjon Denes)が伴奏を務めている。
私は、ペレーニというチェリストを、シフとの共演盤を通して知ったのだけれど、チェロという楽器を操って、たいへん深い音楽を奏でる人だとの印象があった。チェロという楽器は、もっとも人の声に近い音色が出ると言われているが、ペレーニの演奏は、音の精度がきわめて高く、人の声よりも一段と奥行きがあって、その調整がきわめて細かい。微細なニュアンスを周到に何段も備えることで、スケールの大きい音楽を引き出していて、なるほど、ピアニスト、シフとの相性も素晴らしく良いものだった。以後、私は、このチェリストのコダーイのチェロ作品全集などを聴き、一層感慨を深めてきた。
ペレーニの活動にはどこか禁欲的な雰囲気があり、そのレパートリーも通俗性を敬遠するかのように、いわゆるチェロ音楽の王道的なものがほとんど。なので、この演奏会でも、アンコールでさえ、ショパンのソナタを引用するような、生真面目さがある。この曲目を見るだけでもペレーニの職人気質は伝わってくるのだ。
バッハの無伴奏チェロソナタ第3番ではペレーニの自在な運弓、運指が圧巻で、ほどよく起伏を与えながらのスムーズで的確な音量は、いかにも高品質の音楽を聴いていると思わせてくれる。バッハの無伴奏チェロ作品群は、元来チェロという「低音伴奏」的役割を持つ楽器に、ソロでどこまでの表現が可能かを試し、結果驚くほどの高みに到達した名曲である。しかし、ペレーニはまじめな演奏哲学で接してはいるが、演奏にかしこまったところが少なく、むしろ実に自然なやわらかみと暖かさに満ちている。
ブリテンのチェロソナタは5つの楽章からなる作品だが、なんといっても第3楽章の「エレジー」が印象に残る。ここではヴァーリョンの卓越したピアノ伴奏も特筆したい。したたるように力の蓄積と放散を繰り返すピアノの音色が、音楽の振幅を増幅し、聴き手の情感に強く訴えかける力となっている。
ブラームスのチェロソナタ第2番はペレーニの力強く、しかし逞しい音色が素晴らしい。伸びやかでありながら、緩みのない稀有のチェロだと思う。いずれの曲も曲の格式と価値を感じさせてくれる名演だと思う。