振り子で言葉を探るように
堀江さんの書評を通して出会った作家は、チェーホフ、ル・クレジオ、須賀敦子、池澤夏樹、小沼丹、山田稔、吉田秀和などなど数知れず。ある時は雑誌の掲載、またある時は月間誌上で。あとがきにもありますように、「書評集の名目で本をつくるのは「本の音」に次いで今回が二度目」だそうです。極上の書評集に再会できて、夜の夜長の楽しみがまた増えました。新たなる出会いが始まりそうです。
雪沼とその周辺 (新潮文庫)
この二百頁に満たない小品集は、
≪雪沼≫という土地での生活を描いたものです。
この哀感ある地名は存在しませんが、
土地に暮らす人々の生活の一片を垣間見ると、
巻末の池澤夏樹の解説にあるように、
雪沼で生活しているかのように思えるのが、
淡白ながらするりと作品に引き込む文章の魅力なのです。
さりげない生活の中にさりげない奇跡を織り込んでいる分、
そこに派手さはなく、退屈ととられるかもしれません。
ですが、
最後の一投にかけるスリル、
失われたものへ向ける悲しみ、
ささやかな誇りへの英雄譚、
大切なものが壊れる瞬間、
など、小粒でもピリリとした刺激に満ちた秀作ばかりです。