化城の昭和史―二・二六事件への道と日蓮主義者〈上〉
「暗黒の昭和史は、柳条湖の鉄道爆破の瞬間に幕を開けた。昭和六(1931)年九月十八日の深夜であっった」−寺内大吉が膨大な資料を縦横無尽に駆使して描く、昭和前史である。
「それにしても日露戦争の終結以後、日本民族の満州の地へ向けた怨念執着は異常と言える。父祖が流した血を、何としてでもあがなわずにはおれなかったのであろう」
歯切れの良い文章が素晴らしい、その時代を化城と呼ばざるを得なかった著者の諦観と慟哭を感じさせる小説だ。
深い内容と物凄い数の登場人物に圧倒され、舐めるように読んだ。
傑作だ。
血盟団事件、五・一五事件の生々しい記述・・・、そうだ、この小説の登場人物達はみんな生々しい。
奉天の関東軍司令部で撮られた一枚の記念写真(本庄繁、張景恵、馬占山、蔵式毅、煕洽、板垣征四郎、石原莞爾、片倉衷ら)の背景に写る「南無妙法蓮華経」の題目。
隠された時代のキーワード日蓮主義とは?
興味のある方は、必読と思う。
以下蛇足。
引用された書物、手記、日記、公判記録等の人物は膨大で、以下主な名前をあげる。(ほぼ登場順)
石原莞爾、藤井日達、井上日召、北一輝、西田税、片倉衷、大川周明、樋口季一郎、相沢三郎、永田鉄山、大蔵栄一、満井佐吉、真崎甚三郎、本多日生、田中智学、日蓮、宮沢賢治、高山樗牛、今村均、犬養毅、妹尾義郎、江川忠治・・・。
法然讃歌―生きるための念仏 (中公新書)
親鸞について書かれたものは多い。しかしその師である法然に関する本は少ないのではないか。本書は法然の全体像を理解するのに格好のものだ。平安の世から鎌倉幕府の時代にかけて、念仏の教えがどうしてひろまったのか、そして何故弾圧されたのか。その高度に政治的な領域にまで及んで、鋭い考察がなされている。残念なことに、入門書としてみれば政治がらみの駆け引きや謀略についての論述はやや複雑すぎたきらいがある。しかしながら、法然というひとが法王、貴族といった要人と交わりながらも、決してその政治力を求めなかったこと、さらにかれの「浄土」の教えが呪術とは無縁なものであったということを知って、改めて法然という存在の大きさを思い知らされた。