あの村上春樹も絶賛なんだからおもしろくないわけがない。私自身、このチャンドラーのロング・グッドバイは今まで読んできた本の中で三本の指に入る。そしてフィリップ・マーロウは一番好きな探偵で間違いない。この長さなのに退屈を感じた瞬間は一度もなかった。森博嗣も言及していたが、本当に凄い作家というのはチャンドラーやサリンジャーのようになんでもないような事をここまでおもしろく魅力的に書き上げることのできる人なんだろう。こういう言い方は良くないかもしれないが、まあ日本の作家ではこれはかけないでしょう。
フィリップ・マーロウの世話ぶりから推測すると、テリー・レノックスという人物は人を引きつける魅力をたっぷり持っているのだろう。 彼は大富豪の娘と結婚もした。 しかし、良かれと思ってしたことが他人を凄まじい混乱に引きずり込む、という運命を彼は背負っているようだ。 以下ネタバレです。 戦争で捕虜になり、命は助かったものの顔の負傷や過ぎ去った時間のことを考え、彼は結婚したばかりの妻のもとへは帰らないことにした。 するとその元妻が近所へ引っ越してきてしまう。 そして彼の妻(シルヴィア)が元妻(アイリーン)の夫(ロジャー)と不倫をする。 そのことに気付いたアイリーンがシルヴィアを殺してしまい、テリーは勝手にアイリーンの罪をかぶることにする。 テリーの行動は一見理不尽だが、冒頭部分の彼の言動には何かそういうことをしそうな気配が漂っている。 「これ以上君(マーロウ)に迷惑をかける理由がなかった。誰かに助けを求めるのは簡単なことじゃない。特に何もかもが自分のせいだという場合には」 「僕のプライドはそれ以外に何も持ち合わせていない人間のプライドなんだ」 「僕のような人間は生涯に一度だけ晴れがましい瞬間を持つ。空中ブランコで完璧な離れ業をやってのける」 「(シルヴィアの)父親に対する目眩ましのような役割をつとめるだけじゃなく、いつかもっと真剣に自分が必要とされる時が来るんじゃないかと思ってね」 テリーは歪で極端な使命感を持った人なのだ。往々にして極端な使命感は人を危険にする。そのうえ歪とくれば救いようがない。 フィリップ・マーロウもこう言っている。 「次にロールズロイスの中に倒れている礼儀正しい酔っぱらいを見たら逃げ出すべきだ。 自分で自分に仕掛ける罠がなにより質の悪い罠なのだ。」
今年のベスト。(まだ2ヶ月ちょっとだが)。自分的には「苦役列車」を抜いた。
著者は昔から変な人だと思いながらも、とても気になる存在だった。まさかこんな形で今頃本が出るとは思ってもみなかった。人生はそんなに悪いものじゃない。
ルックスの良さと茶目っ気で人気はあったものの、音楽センスに関しては一部から疑問視され、またそのことを自分でも理解していた著者は、学者(具体的には大学教授)を目指し、芸能界から去る。それが解散コンサート後の最後の晩餐時における「10年後に君らは乞食になっている」発言につながる。気負いとルサンチマンの人でもあった。
しかし結局は教授になるどころか大学教員にすらなれず、一介の高校教師として定年を待たず教壇を去った。
清張の小説ならばここで悶死、憤死して終わるのだろうが実際は違う。本当の人生はそんな小説みたいに単純なものではないというのを、読者(私)は思い知らされる。
まず生い立ちが語られる。父と母。乳母と継母(これだけでも凄い)。兄、姉、腹違いの妹たち。友人、知人、その他諸々。セレブあり、路上生活者あり、民青あり、創価学会ありと登場人物も多士済々。中身も波瀾万丈、複雑怪奇である。
ラストでオリジナル・メンバーの5人が揃って元マネージャー中井国二を見舞う挿話は特に圧巻。41年ぶりの集結と簡単にいうが、モンテ・クリスト伯やミンダナオ島の小野田さんよりはるかに長い「鎖国」の年月である。よくも全員揃ったものだ。見事。
その前の(事前の)再会でも、いきなり涙する凡人タロー(これが普通か)。わざとらしいほどクールに振る舞う偏屈者トッポ。その中間ぐらいのジュリー。いやはや個性的なメンツ。やっぱり、ザ・タイガースはスーパーグループだった。人間的魅力という点では、メンバーをビジネスライクに切り捨てるストーンズや地獄が凍り付いても再結成はないなどと言い放ちながらすぐに集まってどさまわりを始めたイーグルスなどを軽く凌駕している。
よくある自叙伝、自分史の類と異なり、都合のいい自慢話に満ちあふれているわけでもないし、悪意に満ちた露悪的な暴露本でもない。
単にあったこと思ったことをつれづれに訥々と書き連ねているだけなのに、大河ドラマなみのコクと芳醇な深みが生まれている。やはり半世紀近い熟成の結果かしらん。
回顧録としてはノーベル文学賞を受賞したチャーチルの「第二次大戦回顧録」と双璧をなすのではなかろうか(読んでないけど)。
こういう話し方、態度の人はこっけいだよ、という事例を集めている。体系的な整理ができているわけではなく、思いつくまま並べたように思える。事例の中に「根拠を言わずに決めつける」「ケチばかりつける」「少ない情報で決めつける」というのがあるが、この本の内容自身があてはまるのでは?と思ったりもした。 ただ、ナンシー関さんのようなひねりがあれば、一つのぼやき芸、おちょくり芸として成立するのかもしれない。
こんなマーロウもありではないか?
猫派のマーロウが犬だらけの街を行く。
象徴がちりばめられ、アメリカ文学の短編を読んでいるようだ。
とぼけたチンピラどもも愛おしく、ラストなど松田優作の「探偵物語」に
影響を与えていると思える。
このころのアルトマンには遊びがあって、ほんとにカッコいいなあ・・・
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