前々から読みたかった作品が文庫本になったので購入しました。
まず文学性と反権威を両立させたタイトルが秀逸。 そして中身も正統派の文学作品でありながら、鋭い爪と毒々しさを持った作品です。
10代の頃の貧乏なんて不幸でもなんでもありませんが、”貫多”が真に不幸なのは、 必死で働いてせっかくお金が入っても、しょうもない居酒屋や風俗で散財してしまう、 勤め先で待遇改善のチャンスがあっても理由ともつかない理由で棒に振ってしまう、 そんな非上昇志向な気質を持っていることでしょう。
そしてそのような気質は、なんとか人並みの社会人になった私の中にも間違いなくあり、 この作品を読んでいると、「私の中の”貫多”」に、暗い沼の底へ引きずりこまれるようで 怖い反面、心地よくもあるのです。
解説は石原慎太郎氏。いまや権威の象徴のような石原氏とこの作品は真逆のように見えますが、 氏のなかにもやはり”貫多”がいるとしたら、非常に健全だし心強いことです。
6つの短編を収めた一冊で、表題作は昨2006年の第135回直木賞受賞作品。
同じ著者の「いつかパラソルの下で」(角川書店)では、“人生を誰かのせいにしたりはしない”前向きな主人公の姿勢に感銘を受けながら読んだものです。本書に収められた作品群でも、主たる登場人物たちは自らの巡り合わせの悪さの責めを他人に負わせるような愚は犯しません。その一歩手前で踏みとどまろうとしている様子が見て取れます。そこに彫りこまれた著者の人生哲学には好ましいものを感じました。
しかし、不満も残ります。どれも物語の辿り着く先が、お話の中途でおおよそ予想がついてしまうのです。
「犬の散歩」は、子供が出来ないために舅の覚えがめでたくない主婦の物語。この義父と義娘の関係の収束は望めるのか?
表題作の主人公の元夫は、UNHCR職員で、仕事の途中で客死しています。彼は職場の同僚でもある妻にかつて、難民の国で実地に仕事してみることを盛んに勧めていたのに、彼女はそれを頑なに拒んでいました。最後に彼女が選んだ道は?
と書くと、大抵の読者には容易に予想がつくのではないでしょうか。
実際のところ、ぐずぐずする姿勢をほんのいっとき垣間見せる主人公たちが、後段では必ず、ぎこちなくはあるものの、確かで新たな一歩を踏み出すことになります。しかしそんな道程にさほどの障碍ややりきれないほどの逡巡は存外見られません。それはおそらく、どれもが短編であるがために、割くことが許された紙幅が圧倒的に足りなかったからでしょう。
起伏がない淡白な展開のまま、予定調和に向けてまっしぐら。そんな印象の強いお話に仕上がってしまっているように思えてなりません。
著者・森絵都の紡ぐ日本語の確かさは前作同様変わることなく、私の大いに好むところです。ぜひ、次回は読者を大きく振り回すような想定外の出来事を盛り込んだ、長編小説を期待してやみません。
圧倒的なクオリティ。原作も相当に良くできた面白い小説なのですが、個人的にはこのドラマは原作を凌駕していると感じました。これは希有なことだと思います。
見事な脚本、演出。主役級から脇役に至るまで、全ての出演者の熱のこもった素晴らしい演技。何度仲村トオルの振り絞るような言葉に涙腺がゆるんだことか・・・
もしこれを「連続ドラマ」というのなら、民放で流されているドラマの大半は別の名称をつけるべきだと思います。もしくは、こちらを「5時間の映画」と呼ぶべきでしょうか。
とにかく星5つでは足りない必見の作品、一気見は必至です。
直木賞受賞作品ということで手に取りました。 昨今の就活事情がよくわかる本です。 ES(エントリーシート)?就職サイト?WEBテスト?……知らない言葉ばかり……。 面接まで行き着くのがこんなに難しいことになっているなんて……初めて知りました。 ブログ、フェイスブック、ツイッター……短い言葉で自分を表現しなければならない現代。 特に、就活の面接で、自分が「何者」であるかを語るとき、限られた時間で、どんな言葉を取捨選択するのか……本当にすごく難しいと思います。 自分が「何者」であるかを端的に話せる人などいるのでしょうか。 友人の子どもたちの何人かが、就活真っ只中。 話を聞くと、その厳しさ、辛さが垣間見えてきます。 「落ちる度に、自分が全否定されたような気持ちになり、落ち込む」と口々に言います。 高校や大学を出た若者が彷徨い、漂流しなければならない。彼らを受け入れることのできる社会が構築されていないということに、じくじたる思いでいっぱいです。 若い人たちが、職業に就ける。家庭を持つ。子どもをつくる。等々、普通の暮らしが当たり前にできる世の中になってほしいと切に思いました。 後半は、かなりイタく、えぐられるような気持でした。 もう一つのアカウント。匿名社会の象徴ですね。 人間不信になりそうです。
他人から見ると大したことないと思うのだけど、自分たちにとっては困った問題というような、「我が家の問題」を描いた6つの短編集。
相変わらず描写がリアルで、こんなことあるあると思わず納得しながら読めた。1つの作品を除くと「我が家」というよりも「夫婦」の問題が中心だったと思う。
個人的には、「甘い生活?」と「里帰り」が好きだった。
「甘い生活?」は新婚なのだが、何事にも手を抜かない妻を負担に感じてしまう夫の話。最後はどうなることかと思いきや、読後感がよい終わり方だった。
「里帰り」は、結婚して初めてのお盆休みを迎える夫婦がお互いの実家に帰省する話。夫が北海道で妻が名古屋、お互いどのように振舞って苦難を乗り切っていくか。ボクは未婚なのでこの気持ちは分からないのだが、読んでいるだけでなんだか気疲れしてしまう感じがうまく表現されており読みやすかった。
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